2012/04/09

うめの実<吉四六(きっちょむ)さん>






むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。 
きっちょむさんが時々町へ何かを売りに行く途中の村に、三太郎という、 
とてもわんぱく小僧がいました。この三太郎にだけは、さすがの 
きっちょむさんのとんちも効き目がなく、いつもきっちょむさんに 
ちょっかいを出してきます。 



今日もきっちょむさんが町に行っての帰り道、この村にさしかかると、 
三太郎が梅の木の上に隠れていて、きっちょむさんの頭に梅の実を 
ぶつけてきました。いつもだったら、きっちょむさんが叱りつけ、 
そして三太郎が逃げて行くの繰り返しですが、今日のきっちょむさんは 
いつもとは違い、梅の実を投げつけた三太郎を見上げて、にっこり笑うと、 
「や、三太郎か、これはどうもありがとう。おかげで、明日は良いことが 
あるだろう。さあ、これお礼だよ」と、財布から三文を取り出して、 
梅の木の根元に置いたのです。 



すると三太郎は、不思議そうな顔で、木の上から言いました。 
「やい、きっちょむさん! 何だって、お金をくれるんだ!」 
「おや? お前、知らないでやったのか? 今、お前がぶつけたのは 
梅の実だろう。だから、これは、『ウメエ事にぶつかる』という前ぶれで、 
とても縁起がいいんだよ。こんな事をされたら、誰だって喜んで、お金を 
くれるにちがいないさ」きっちょむさんがまことしやかに言ったので、 
三太郎はすっかり信じてしまいました。 


さて、その次の日の事。 
きっちょむさんがまた町へ行こうと、この村にさしかかると、道ばたで 
三太郎が遊んでいました。「おい、三太郎」きっちょむさんが声をかけると、 
三太郎は、どんどん逃げていきます。そして、遠くから言いました。 
「おい、きっちょむさん! 昨日は、お前のおかげでひどい目にあったんだぞ」 
「ほう、どうしたんだい?」 
「お前が言ったすぐあとで、お侍さんが通りかかったので、お金をもらおうと、 
梅の実をぶつけたんだ。すると、お侍さんが『手打ちにする!』と言って、 
怒ったんだよ」 
「はっはっはっ。それは大変だったな。でもそれで、ちっとはこりただろう?」 
「ああ、そのお侍さんは、悪者をしばるお役人で、またこんないたずらをしたら、 
次は牢屋に入れると言っていた。だから、もう悪さはよしたよ」 
「そうか、それは感心感心。今日はほうびに、町から菓子を買ってきてやるぞ」 
 きっちょむさんがこう言うと、三太郎は首を大きく横に振って、 
「いらない。いらない。お前から物をもらうと、また、ひどい目にあうからな」 
と、逃げてしまいました。 

<福娘童話集より> 







昨日は、お散歩日和であちらこちらの桜を見に行きました。途中立ち寄った 
いくたまさん(生國魂神社:年に一度、上方落語協会が開催する、ファン感謝 
イベント「彦八まつり」の開催地としても有名)でも桜が見事に咲いていました。 
フッと見ると、本殿の両側に小さな梅の木が植木されていました。 
白、ピンク、紅、マーブルと一つの木に沢山の色をたくわえた可愛らしい梅。 
桜咲き舞い散る姿もいいですが、梅の木も凛としていていいですね。